ノーカントリー①

世の中には星の数ほどの映画がありまして、人によって好きな映画っていうのは千差万別、各々違ってくるものです。

自分にとってかけがいのない忘れがたき作品のパンフレットも他人にとってはケツを拭く紙にもなりゃしねぇってのは往々にしてよくある話です。

それが良いことなのか悪いことなのか、善悪の彼我をどうこう言うのは詮無きことなのかもしれません。

「みんな違ってみんないい」という学校の先生が言いそうな言霊を軽々飲み込んでしまう度量を映画という娯楽が持ち合わせている証明なのかもしれません。

 

…でもやっぱり自分の好きな作品をコケにされるとはらわた煮えくり返る思いじゃコノヤロー!!!!(前回のレビューは小噺程度に…)

 

んで今回は割と評価の分かれる、でも個人的にはとっても好きなノーカントリーという作品を紹介します。

 

・死神シガーがもたらすもの

この映画には控えめに言ってものすげーキ○ガイがいきなり出てきます。

家畜の屠殺に使われる空気銃を片手に曖昧な表情でノソノソノソ…気だるげに歩くハビエル=ベルデム演じる殺し屋シガーなのですが

まず顔がでかすぎてビビります。

もともとハビエル氏のでかい顔が映画的演出で更に大きくなっているので

だんだん顔だけが別個の生命体のようにみえてはっきりいって初見からめちゃくちゃ関わりたくねぇ…という直感が働きます。

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(怖いよー)

ニンテンドー64FPS黎明期の傑作007ゴールデンアイやたら顔がでかくなるアレを彷彿とさせます。

勿論気持ち悪いというのは映画的演出がそうさせるのであって

ハビエル氏の俳優としての凄みとコーエン兄弟率いる制作陣の力量と懐の深さに直結しているのは言うまでもありません。

落ち武者ち○こ頭もといエイリアンもあのゲロゲロなグッドルッキングで一世を風靡しました。映画界における気持ち悪いは誉め言葉なのです。

絶賛公開中のパイレーツオブカリビアンの最新作でも悪役で登場しているそうなのでそれを見たキッズたちがハビエル氏繋がりでこの作品を間違っても見ないように親御さんはしっかり手綱を握りしめる必要があります。

 

でこのシガーさんもう初っ端から殺る気満々、そこかしこで死の暴風雨の如く人をぶっ殺しまくる訳ですが

劇中ガソスタのおっさんと色々あってコイントスをする場面があり、その場面では割とどうでもいい人間を殺すか殺さないか決めかねているときはとりあえず相手とコイントスしてから決めるという独自の俺ルール・マイ哲学を披露するあたり若干ながら矜持のようなものも持ち合わせているらしく

それがまたシガーという人間の正体不明さ・不気味さを一層際立たせるのに役立っています。

我々が抱くシガーに対する恐怖の根源は何をしでかすかわからないという一点で、それは満員電車でいきなりキ印の人と遭遇してしまった時の焦燥感、不安と若干似ています。

シガーがそれ以上なのは明白ですが彼自身が周りに死をまき散らす恐怖そのもの。

なおかつなんの前触れもなく突然と、圧倒的な暴力で命を奪い去るという迷惑極まりない諸行無常の切ない響きをコーエン兄弟はこの人物を通じて大変上手く表現しています。

 

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(今日もやったるデー)

 

この作品の一応の主人公は語り部として機能しているトミーリー・ジョーンズ扮するベル保安官らしいのですが彼自体はつぶやきシローのように観客に語り掛けるような設定で特に物語をひっかきまわしたりすることはありません。

理由に関してはこの映画の元々の原題「No country for old men」の意味と映画自体を最後まで見るとわりと簡単に分かると思います。

理不尽で唐突な死をもたらす者について深く深く嘆いています。

シガーはそんな老保安官をよそに殺戮の限りを尽くすわけですが…

 

夜勤明けで眠いので次回に。見ていただいてありがとうございました。

次項はコーエン兄弟独特の地味とシュールの間の絶妙なバランス感覚について触れたいと思います。生きててすいません。